海外中古不動産の節税は、封じられた手法の中で唯一、会計検査院の指摘から改正までの道筋が公的資料で追える。2016年11月の平成27年度決算検査報告で指摘され、2019年12月の令和2年度税制改正大綱で封じ込めが決まり、2021年分の所得税から適用された。指摘から適用まで約4年。「会計検査院の指摘から数年で封じられる」というパターンの原型がこれである。
封じられる前の仕組み
高所得の個人が、米国などの木造中古住宅を買う。土地と建物の価格比率が日本と逆で、建物が8割を占める物件が多い。法定耐用年数22年を過ぎた木造住宅は、簡便法で耐用年数を4年(22年×20%)と見積もれるので、建物価格を4年で償却できる。
たとえば1億円の物件で建物が7,000万円なら、年1,750万円の減価償却費が立つ。賃料収入を大きく上回る赤字が不動産所得に生じ、それを給与所得や事業所得と損益通算して所得税を減らす。5年目以降に売却すれば、償却で下がった簿価との差額は譲渡所得として分離課税(長期なら20%程度)で済む。所得税率の高い層ほど、総合課税の減額と分離課税の差が利益になった。
何がどう変わったか
令和2年度改正で租税特別措置法41条の4の3が創設された。国外中古建物について、簡便法(または一定の書類のない見積法)で耐用年数を算定した場合、その減価償却費に相当する部分の損失は「生じなかったものとみなす」。つまり国外中古建物の赤字のうち、償却費由来の部分は他の所得と通算できなくなった。
適用は2021年分以後。改正前から持っていた物件も対象で、経過措置はなかった。2020年分までは従来どおり損益通算できたので、駆け込みで売買が動いた。
なぜ封じられたか
会計検査院の平成27年度決算検査報告は、10の税務署の平成23〜25年分を調べ、国外中古建物の所有者延べ337人(純計204人)の減価償却費が39億8,650万円にのぼり、抽出した153人のうち129人(84.3%)が不動産所得で損失を出していたと報告した。国外中古建物の83.2%で減価償却費が賃貸料収入を上回り、一部は10倍を超えていた。簡便法の「100分の20」という率が昭和26年から一度も見直されていないことも指摘し、財務省に減価償却費のあり方を検討するよう求めた。
指摘の3年後、令和2年度改正大綱に盛り込まれた。改正の理由は「所得税の負担を不当に減少させる」という趣旨の説明で、検査院の数字がそのまま根拠になっている。
改正後に残ったもの
法人は対象外である。法人が国外中古建物を保有する場合、簡便法による短い耐用年数での償却は今も認められ、法人の所得全体と通算される。このため改正後、個人から同族法人への売却や、最初から法人で買う提案が広がった。
個人でも、国外不動産同士の内部通算は認められている。また「なかったものとみなされた」損失に相当する額は、売却時の取得費から差し引かないので、譲渡所得の計算でその分は取り戻せる。損失が消えるのではなく、総合課税から分離課税へ付け替えられたと理解するのが正確だ。
その後、買った人に何が起きたか
改正は損益通算を止めただけで、物件の保有や償却そのものを否認したわけではない。追徴や訴訟は公的資料では確認できていない。ただし2020年分までの節税効果を前提に高値で買った物件は、賃料利回りだけで持ち続けることになり、出口の判断を迫られた。
組成側の視点
海外不動産の節税は「税率の差」を利益にする設計だった。総合課税の最高税率と、譲渡所得の分離課税の差。この構造は、損金の大きさを売る商材とは少し違う。だから封じ方も「損失をなかったことにする」という、他の商材には見られない型になった。会計検査院が数字を出した時点で、封じられるまでの残り時間は読めた。検査報告は毎年11月に公表される。節税商材を買う前に、その年の報告に自分の商材の名前がないかを確認するだけで、3年先の改正が見える。
次に封じられる商材を読む物差し
検査院の指摘は、公表から改正まで3〜4年の猶予があった。これが最も長い部類で、国税庁の通達改正なら公表から適用まで10日、税制改正大綱なら12月の決定から翌4月の適用まで4か月しかない。封じられる経路によって、逃げる時間がまったく違う。検査院が名指しした商材は、まだ時間がある代わりに、封じられることがほぼ確定している。