経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、節税商材ではない。取引先の倒産に備える国の共済制度である。それでも税制改正の歴史に入れるのは、封じられた理由が他の商材とまったく同じだからだ。制度の趣旨と関係のない「損金枠の再生」に使われ、所管官庁が数字で実態を示し、税制改正で使い方だけが封じられた。
封じられる前の仕組み
経営セーフティ共済は、月額掛金(上限20万円、累計800万円まで)の全額を損金にでき、取引先が倒産したときに掛金の10倍まで無担保で借りられる。加入から40か月以上経てば、任意に解約しても掛金の100%が解約手当金として戻る。
ここに損金枠の再生という使い方が生まれた。40か月払って解約し、手当金を受け取り(この時点で益金になる)、すぐに再加入して掛金を再び損金にする。益金と損金を同じ期にぶつければ課税は生じず、累計800万円の枠を何度でも使い直せる。利益が出た期に前納で掛金を積み、赤字の期に解約して益金を出す、という調整弁として使う法人も多かった。
何がどう変わったか
令和6年度改正で、租税特別措置法66条の11(法人)と28条(個人事業者)が改正された。2024年10月1日以後に共済契約を解除して再加入した場合、解除の日から2年を経過する日までに支出する掛金は、損金(必要経費)に算入できない。改正法は2024年3月28日に成立、3月30日に公布された。
解約と再加入自体は今も自由にできる。封じられたのは、再加入後2年間の掛金の損金算入だけである。
なぜ封じられたか
根拠は中小企業庁が2024年1月の中小企業政策審議会共済小委員会に出した資料「不適切な利用への対応について」にある。加入から3〜4年目、つまり40か月の壁を越えた直後の任意解約が全体の約33%を占め、解約後2年未満に再加入した人がその約8割(うち1年未満が約71%)、再加入者は加入者全体の約16%にのぼっていた。40か月で解約が集中するという数字が、制度が本来の目的で使われていないことを示した。
大綱は2023年12月14日。会計検査院の指摘は確認できていない。国税庁の通達でもなく、所管官庁の審議会が実態を数字で出して封じた、という第三の経路である。
改正後に残ったもの
初回加入の掛金は従来どおり全額損金になる。解約後2年を経過してから再加入すれば、その掛金も損金になる。2024年9月30日以前の解約には旧法が適用される。
つまり共済としての機能と、初回の損金効果は何も変わっていない。「解約と再加入を短期で繰り返す」使い方だけが封じられた。
その後、加入者に何が起きたか
改正の適用は2024年10月1日以後の解約に限られるので、それ以前の解約と再加入が否認されたわけではない。2024年9月までに解約と再加入を済ませる駆け込みがあったと税理士法人の解説は書いているが、件数は確認できていない。追徴や訴訟は公的資料で確認できていない。
組成側の視点
セーフティ共済は、売り手がいない商材だった。手数料を取る組成者がいないのに、使い方だけが商材化した。それでも封じられたのは、所管官庁が「40か月直後の解約」という一点に数字を当てたからだ。ここから読めるのは、当局は商材を見ているのではなく、制度の使われ方の分布を見ているということである。売り手がいなくても、制度の趣旨から外れた使い方が統計に出れば封じられる。
次に封じられる商材を読む物差し
この件の封じ方は「一定期間の損金不算入」で、貸付除外や管理委託除外とは違う。使い方そのものは残し、時間の壁を置いて旨味を消す型だ。国が運営する制度は、使い方の統計が国の手元にある。誰がいつ解約して、いつ再加入したかが全部見えている。小規模企業共済やiDeCoのような制度でも、同じ型の封じ方はいつでも可能である。